世界のお金の流れが変わる?ESG投資とは
投資信託には注意いただきたい事項があります。くわしくは「投資信託の注意事項」をご覧ください。
4.ESG投資をめぐる世界と日本の現状
投資の意思決定プロセスにESGを反映
ESG投資は欧州がリードしてきましたが、世界的な潮流となるターニングポイントは2006年でした。当時の国連アナン事務総長が、金融業界に対して責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)を提唱し、参加を呼びかけました。投資原則は6項目からなり、機関投資家の意思決定プロセスに、ESG課題を受託者責任の範囲内で反映させるべきと明確に示されています。
PRI6つの原則
- 私たちは投資分析と意志決定のプロセスにESGの課題を組み込みます。
- 私たちは活動的な(株式)所有者になり、(株式の)所有方針と(株式の)所有慣習にESG問題を組み入れます。
- 私たちは、投資対象の企業に対してESGの課題について適切な開示を求めます。
- 私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかけを行います。
- 私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します。
- 私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します。
※ (出所)PRI_Brochure_Japanese_2016
その後PRIは世界共通のガイドラインとなり、署名機関は設立から12年で1,942に達しています(2018年3月11日現在)。この中には、世界の運用会社の過半数、有力な運用会社(トップ50)の8割超が含まれ、世界的な潮流となっています。
また2015年には、国連サミットでSDGs(持続可能な開発のための2030アジェンダ)が採択され、2016年から2030年までの15年間で達成すべき貧困や飢餓、環境対策など国際的な課題解決のための17の目標と169のターゲットが設定されるなど、ESGへの取り組みを後押しするグローバルなフレームワークが形づくられています。
こうした動きを背景に世界のESG投資額は急速に拡大しています。2014年から2016年までの2年間で、世界全体のESG投資額は25.2%増加し、全運用資産残高に占めるESG投資の割合も26.3%に拡大し、先行する欧州ではESG投資が過半数を占めています。
2014年 | 2016年 | 成長率 | ESG投資が 全体に占める割合 (2016年) |
|
---|---|---|---|---|
ヨーロッパ | 10,775億米ドル | 120,400億米ドル | 11.7% | 52.6% |
アメリカ | 65,720億米ドル | 87,230億米ドル | 32.7% | 21.6% |
カナダ | 7,290億米ドル | 10,860億米ドル | 49.0% | 37.8% |
オーストラリア ニュージーランド |
1,480億米ドル | 5,160億米ドル | 247.5% | 50.6% |
アジア | 450億米ドル | 520億米ドル | 15.7% | 0.8% |
日本 | 70億米ドル | 4,740億米ドル | 6689.6% | 3.4% |
合計 | 182,760億米ドル | 228,900億米ドル | 25.2% | 26.3% (世界全体) |
※ 出所:GSIA 2016 Global Sustainable Investment Reviewを元に作成
日本でも急速に拡大するESG投資
一方、ESG投資に関して「10年遅れ」といわれていた日本でも、急速に普及が進んでいます。大きな契機となったのは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年にPRIに署名したことです。日本の年金を運用し、世界最大の機関投資家であるGPIFのPRI署名は大きなインパクトを与え、日本のPRI署名機関は2015年以降の3年間で、33から62(2018年3月11日現在)に倍増しました。
また、2014年には金融庁が機関投資家に対し「スチュワードシップ・コード(「責任ある機関投資家」の諸原則)」を導入し、ESG要素を含む投資先企業との目的をもった対話(エンゲージメント)の実践を求めました。それは、企業価値の向上や持続的成長を促し、中長期的な投資リターンの拡大を図る責任を意味します。
一方の上場企業に対しても2015年に「コーポレートガバナンス・コード」を適用し、欧米に比べ遅れていた企業統治の行動規範を定めました。こうした制度整備と歩調を合わせ、国内のESG投資も加速しています。GSIA 2016 Global Sustainable Investment Reviewによると、日本のESG投資額は4,740億米ドルとなっています。投資運用残高全体に占める割合は3.4%と低いものの、今後の拡大が見込まれています。
5.ESGではどのようなことを評価するのか?
多様な基準・質問項目で企業を評価
ESG投資では、具体的に企業のどの部分が評価の対象になるのでしょうか。ここでは、オリックスグループの傘下にある、ESG専門の資産運用会社ロベコSAMが実施しているESG企業別評価「コーポレート・サステナビリティ・アセスメント(CSA)」を紹介します。
ロベコSAMでは1999年から重要なESG要素を体系的に評価しています。調査対象は年間60業種3,900社以上の企業に上り、ウェブを通した質問票を通じて、ESGの3つの側面を20の基準、130の質問項目で各社個別に調査します。評価においては、企業からの質問票への回答のほか、会社公表資料、メディアやステークホルダーを通じた分析などを利用します。
具体的な評価項目の例は図表の通りです。環境的側面(E)では「環境に配慮した製品管理」「水関連リスク」「気候変動への対応」など、社会的側面(S)では「有能な人材の採用および継続雇用」「人材開発」「安全面・衛生面などの労働環境」など、ガバナンス/経済的側面(G)では「コーポレートガバナンス」「行動規範/コンプライアンス」「リスク管理と危機管理」などが、それぞれ評価項目になっています。
全評価基準のうち、50%以上は業種特有の項目から成ります。評価の結果は内部および外部機関による監査が行われます。
ロベコSAMのESGの評価項目

※ 出所:ロベコSAM
6.ESG投資の手法は?
さまざまな選別法で企業への投資
一言でESG投資といっても、そのアプローチはさまざまです。国際機関GSIAでは、ESG投資を以下7つの手法に分類しています。
ESG投資の手法
ネガティブスクリーニング | ギャンブル、たばこ、武器、化石燃料、原子力など、特定業界に属する企業を投資先から除外する |
---|---|
ポジティブスクリーニング | ESGに優れた銘柄のみを選抜する |
国際規範スクリーニング | 業界に関係なくESG分野の国際基準をクリアしていない企業を投資先リストから除外する |
ESGインテグレーション | 投資先選定過程で、財務情報にESG評価を組み込む |
サステナビリティテーマ投資 | 社会、環境、エネルギーなどの特定テーマに関連する企業の株式や債券に限定する |
インパクト投資 | 社会・環境の課題解決に貢献する技術やサービスを提供する企業に対して投資を行う |
エンゲージメント・議決権行使 | 投資先企業との対話(エンゲージメント)や議決権行使により、ESGに関する取り組みを積極的に働きかける |
※ 出所:GSIA 2016 Global Sustainable Investment Reviewを元に作成
ESG投資全体の中では、ネガティブスクリーニングが最も運用額が多く、次いで急成長しているESGインテグレーション型、エンゲージメント・議決権行使型と続きます。地域別では、欧州はネガティブスクリーニング、米国ではESGインテグレーション型がそれぞれ最も多くなっています。
それに対し日本では「スチュワードシップ・コード(「責任ある機関投資家」の諸原則)」が受け入れられたことを背景に、エンゲージメント・議決権行使が主流です。なお、日本の年金を運用するGPIFは、ESG評価の高い銘柄を選別するポジティブスクリーニングの手法をとっています。
ESG投資は、環境への配慮と社会貢献、そして自らを律することで長期的に成長していく企業に投資することです。結果として、そのような企業は私たちにリターンをもたらします。長期投資は、もはや財務情報だけでは実現しません。これからの投資は、世界の潮流であるESGの手法に注目する必要があるのです。
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