資産分散は魔法の杖?
投資信託には注意いただきたい事項があります。くわしくは「投資信託の注意事項」をご覧ください。
資産分散は魔法の杖?
投資信託や株式などに投資を行う時、どのような点に注目していますか。
儲かりそうだという「予想収益(以下、「リターン」といいます。)」や、株式の変動は怖いから債券に投資している投資信託の方がいいという「変動(以下、「リスク」といいます。)」に注目しているのではないでしょうか。
実は、投資を行う際に、もう1つ重要なことがあります。それは、複数の資産に投資をする場合、その資産の「値動きの違い(以下「相関」といいます。)」です。
具体例を見てみましょう。
資産Aは、株式のように、変動は大きいものの中長期的には資産の値上がりが期待できる資産です。当初100円を投資した結果、10カ月後に105円に増加。上昇時は1カ月で3円値上がりし、下落時は1カ月で2円値下がりしました。
一方、資産Bは、金(きん)のように他の資産を保有したくない時に退避手段として利用する資産です。当初100円を投資した結果、10カ月後は変わらず100円。上昇時は1カ月で1円値上がりし、下落時は1カ月で1円値下がりしました。
「リターン」にだけ注目すれば、資産Aにだけ投資すれば良いという結論になります。
「リスク」にだけ注目すれば、資産Aの方が大きく値上がりする反面大きく値下がりもすることから、変動の小さい資産Bが好ましいという人も出てくると思います。
この2つの情報だけで判断すると、資産Bは、マイナスになるリスクがあるにもかかわらず、収益が上げられないことから投資したいと考える投資家は少ないのではないでしょうか。
しかし、この2つの資産にもう1つ重要な情報があります。資産Aが値上がりする月は資産Bが値下がりし、逆に、資産Aが値下がりする月は資産Bが値上がりするという、「相関」で、値動きが間逆の関係にあるのです。
たとえば、資産Aを25%と資産Bを75%買うとどうなるでしょうか。10カ月後に101.25円に値上がりします。加えて、一度も値下がりする月はなく、前月比で横ばいか値上がりとなります。
「リターン」は、資産Aだけを持つよりだいぶ低くなるが資産Bだけを持つより良くなります。また、「リスク」は下落しないので、資産A、資産Bのどちらかだけを持つより安心という結論になると思います。
「リターン」と「リスク」の情報だけでは無用の長物であった資産Bが、「相関」という情報を加えることで、買う価値のある資産に生まれ変わるのです。

このように、投資を行うときは、個別の資産の「リターン」、「リスク」を見るだけでなく、「相関」も考慮して、どの組み合わせがいいのか、どのくらいの割合で組み合わせればいいのかが、重要になるのです。
以下では、具体的に当社が取り扱う「ORIX Bank Selection」の3本の投資信託の投資戦略を組み合わせる場合について説明したいと思います。
3本の投資戦略は、世界の国債などに投資する戦略、世界の社債などに投資する戦略、先進国株式などに投資する戦略と、投資する対象が異なっており、それぞれ違う動きをすることが期待できる戦略です。
まずは類似の投資戦略について、過去の実績を見てみましょう。
投資戦略 | リターン(年率) | リスク(年率) | 相関係数 | |
---|---|---|---|---|
世界社債 | 先進国株式 | |||
世界国債 | 3.0% | 4.0% | 0.38 | -0.19 |
世界社債 | 4.3% | 3.9% | 0.35 | |
先進国株式 | 12.4% | 10.1% |
使用データは、各ファンドと類似の投資戦略で運用を行った複数のデータをまとめて合成したもので(コンポジットデータ)、2010年12月から2018年11月の8年間の月次のリターン(運用報酬等費用差し引き前、為替はユーロ)です。
この運用期間の各投資戦略の※リターンとリスクですが、
リターンは、世界国債 < 世界社債 < 先進国株式
リスクは、世界社債 < 世界国債 < 先進国株式
※ リターンとは、資産運用を行うことで得られる成果のことであり、利益が得られることもあれば、損失が出ることもあります。一方、一般的にリスクとは「危険なこと」という意味で使われていますが、資産運用の世界では、リターンの不確実性の度合い(振れ幅)のことを表しています。
数字だけを見ると、リターンとリスクともに、世界国債より世界社債の方が良く、世界国債に投資をするメリットがわからないようにみえませんか。
そこで、前項コラムでお話した、もう1つの重要な要素である「値動きの違い」(以下「相関」といいます)を見るための指標である「相関係数」をみていきたいと思います。
「相関係数」とは関係性の強さを表わす指標で、-1から+1の間の数字で表します。
-1の場合は全く逆の方向の動きをする(前項コラムの例の資産Aと資産Bの関係です。)、0の場合は2つの資産の関係性はなく、+1の場合は全く同じ方向の動きをすることです。その中で、数字がマイナスの場合を「逆相関」といい、リスクを減少させる組み合わせとしては非常に適しています。世界国債と先進国株式の相関係数は-0.19と逆相関になっており、組み合わせる資産として適していることがわかります。
次に下のグラフを見てみましょう。このグラフは、リターンを得る上でリスクが最少となる資産の組み合わせを算出し、そのリスク・リターンをつなげたものです。

上のグラフ中の①は、リターン3%を得る場合にリスクが一番少なくてすむのはリスクが4%の時で、その時の資産の組み合わせは、世界国債の投資戦略に100%投資した場合となります。
リターンを上げていくと、最初、矢印が示すように左上に動いていくのがわかります。これは、リターンを上げていくとリスクが下がっていくということを表わしています。すなわち、たくさんリターンを得たいと思うと、リスクも減少していくので、こんな良いことはありません。逆に言うと、わざわざ、リターンを抑えてリスクを負う必要はないということになります。
しかし、さらにリターンを上げていくと、これ以上リスクを減らすことが出来なくなります。
下のグラフ中の②は、リスクが一番少ない組み合わせで、リターン4.3%、リスク3.2%、この時投資戦略の比率は、世界国債54%、世界社債37%、先進国株式9%の組み合わせとなっています。

リターン4.3%は世界社債の投資戦略と同じですが、世界社債の投資戦略に100%投資すると3.9%のリスクがあります。それに対して、3資産を組み合わせると、リターンが同じなのにも関わらず、リスクが3.2%まで低下することがわかります。ここからわかるのは、複数の投資戦略を組み合わせて投資を行うと、リスクを抑えてリターンを得る、より良い投資を行える可能性があるということです。
ここで可能性といったのは、闇雲にいろいろな資産に投資をすれば良いのではなく、大事なのは、違う値動きをするものを組み合わせるということです。
また、さきほどのグラフで、最小のリスクの②より先は、矢印のように右上に上がっていきます。より高いリターンを求めるには、より高いリスクを取るしかないということを表わしています。
ここで気をつけなければいけないのは、高いリターンを求めるために増えていくリスクの量は一定ではないということです。
グラフを見ると、リターンを5%から6%に上げたとき、リスクは3.3%から3.7%に0.4%上がりますが、リターンを9%から10%に上げたとき、リスクは6.4%から7.4%に1.0%上がっています。高いリターンを得るには、株式など変動性の高い資産の組み入れの割り合いを多くすることになり、リスクが加速度的に増加するからです。
とかく、リターンは高ければ高いほど良いとリターンを気にしますが、リスクを伴う、それも想定以上のリスクを伴う可能性があることを忘れがちです。
債券で運用する毎月分配型の投資信託が登場した当時は、債券の金利が高い時期でしたので、高い分配をもらっても投資信託の基準価額は下落しない時期もありました。しかし最近では、分配金のほとんどが元本の取り崩しとなっているファンドが多いのが現実です。
日本の国債金利は、10年でもほぼ0%で、欧州でもドイツ国債は10年で0.2%台、米国国債も10年で3%を下回っています。海外に投資するには為替のリスクがあり、為替のリスクを減らそうとして為替をヘッジするとコストが増加し、外国国債の収益はマイナスになってしまいます。
このような低金利の環境下、たかが1%か2%のリターンが欲しいだけと考えていませんか。
世界の金利が極端に低い現状では、1%を稼ぐだけでも相応のリスクを覚悟しないといけなくなっていることを理解しておく必要があります。
今回示した数字は、過去の実績で、かつ、ユーロで投資した場合ですので、今後の投資にそのまま当てはめれば良いというものでは必ずしもありません。
しかし、いろいろな実証データからも、中長期の運用においては、債券や株式を単独で保有するより、組み合わせることが有効であるという結果が出ています。
資産運用は、1つの資産ではなく組み合わせることが重要であるということは、ぜひ覚えておいてください。
プロフィール

清水 暁(しみず あきら)
明日クリエーション株式会社 代表取締役社長
ファイナンシャルプランナー
住友信託銀行、JPモルガン・アセットマネジメント等を経て、講師として独立し、自身の会社として明日クリエーション株式会社を設立。住友信託銀行では、マーケット部門でデリバティブディーラーや市場部門のミドルオフィス設立やプライベートバンキング部門設立、確定拠出年金部長や渋谷支店長他を歴任。現在は、FP協会のCFP・AFP向けプロフェッショナル研修をはじめ、資産運用・相続関連やファイナンシャルプラン、支店長・課長向けマネジメント等に関する研修講師として全国各地で講演を行っている。