コラム
掲載日
2022.7.25

2022年の年金法改正深掘り ~繰り下げ・繰り上げ受給とは?~

Writer

経済エッセイスト

井戸 美枝 氏

長寿化と変わる年金制度

2022年4月から、年金の制度改正が順次施行されています。

ご存じのとおり、日本の平均寿命は延びています。
年金制度がスタートした1961年の平均寿命は、女性が70.79歳、男性は66.03歳でした。男性の寿命の短さに驚かれる方も多いかもしれませんね。
一方、2020年時点の日本人の平均寿命は、女性が87.74歳、男性が81.64歳。この60年間で、20年以上長生きできるようになりました。

長寿になったことで、必要なお金も増えました。60歳で定年退職、その後は年金と貯金で暮らす…といったロールモデルはすでに通用しないでしょう。
何歳まで働くか、どういった働き方をするか、年金はいつから受け取るか。高齢期の過ごし方は多様です。

長く働き、増えた年金を受け取れるよう後押しをする改正が行われています。

本コラムでは、今春に実施された「繰り下げ・繰り上げ受給」に関する改正をピックアップ。あわせて、その注意点もご紹介します。

繰り下げ・繰り上げ受給とは?

そもそも「繰り下げ」「繰り上げ」とはどういった仕組みなのでしょうか。簡単にみておきましょう。

国民年金や厚生年金の「公的年金」は、原則として、65歳から受け取ることができますが、希望すれば、受給を開始する時期を自分で選ぶことができるのです。
60~64歳に受け取り始めることを「繰り上げ受給」。66~75歳に受け取り始めることを「繰り下げ受給」といいます。
2022年4月の改正では、「繰り下げ受給」の上限年齢が、5年間延長され、75歳までになりました。

「繰り下げ受給」を選択すると、受け取りを1カ月遅らせるごとに、0.7%ずつ年金が増えていきます。仮に、70歳まで遅らせると42%、75歳まで遅らせると84%の増額になります。

一方、「繰り上げ受給」を選ぶと、早く年金を受け取れるメリットはあるものの、年金は減額されてしまいます。22年4月の改正では、この減額率が「0.5%」から「0.4%」に縮小されました。
仮に、63歳から受給すると9.6%の減額、60歳まで繰り上げると24%の減額となります。

2022年4月以降 繰り上げ・繰り下げ受給の水準

繰り下げ・繰り上げ 損益分岐点は

繰り下げ・繰り上げ受給を検討する際、気になるのは「どうすれば最も多くの年金額を受け取れるのか?」という点かと思います。

何歳以上まで生きれば、生涯の総受給額が65歳受給開始を追い越すか(繰り上げの場合は追い越されるか)、いわゆる「損益分岐年齢」は、おおむね以下の表のようになります。

表 繰り下げ・繰り上げの損益分岐年齢 (何歳以上まで生きれば総受給額が65歳受給開始を追い越すか)

受給開始年齢 総受給額 逆転の時期
60歳 80歳11カ月
61歳 81歳11カ月
62歳 82歳11カ月
63歳 83歳11カ月
64歳 84歳11カ月
65歳 ―――
66歳 77歳11カ月
67歳 78歳11カ月
68歳 79歳11カ月
69歳 80歳11カ月
70歳 81歳11カ月
71歳 82歳11カ月
72歳 83歳11カ月
73歳 84歳11カ月
74歳 85歳11カ月
75歳 86歳11カ月

繰り上げたケースからみてみましょう。
63歳で受給開始した場合、年金額は65歳受給開始時と比べて9.6%減額。総受給額は、おおむね「84歳」で65歳受給開始に追い越され、その後差は広がっていきます。
60歳での受給開始では、年金額の減少率は24.0%。総受給額はおおむね「81歳」で65歳受給開始に追い越される計算です。

続いて、繰り下げたケース。
67歳まで繰り下げると、年金は65歳受給開始と比べて16.8%増額。「79歳」で65歳受給開始の受取額を上回ります。それ以降は差が広がっていきます。
70歳まで繰り下げると42.0%増額で、おおむね「82歳」で65歳受給開始時の総受給額を上回ります。75歳まで繰り下げると「84.0%増額」となるものの、損益分岐点は「87歳」になります。

先述しましたが、2020年時点の日本人の平均寿命は、女性が87.74歳、男性が81.64歳。少なくとも、女性は繰り下げるメリットがある、といえそうです。

モデルケースでみる 実際の年金額

実際の金額で考えてみると、より老後の家計をイメージしやすいかもしれません。

たとえば、65歳で定年退職し、平均年収が600万円だった会社員の場合。受け取れる年金は、おおむね月額17.4万円(基礎年金6.5万円・厚生年金10.9万円)。年間約209万円です。

この方の場合、国民年金・厚生年金の両方を1カ月繰り下げるごとに、受給額は1,218円アップ。1年繰り下げると、年金額は月額約18.8万円、年間で226万円になります。2年繰り下げると、月額約20.3万円、年間で約243万円。3年繰り下げると、月額約21.7万円、年間261万円となります。

反対に繰り上げた場合、国民年金・厚生年金を1カ月繰り上げるごとに、受給額は696円ダウン。1年繰り上げると、年金額は月額約16.5万円、年間198万円に。2年繰り上げると、月額15.7万円、年間188万円。3年繰り上げると、月額14.8万円、年間178万円となります。

厚生労働省のウェブサイトでは、将来の年金額をシミュレーションできる「年金シミュレーター」が試験運用されています。
生年月日、年収、いつまで働くか(就労完了年齢)、いつから受け取るか(受給開始年齢)を入力すると、年金見込み額がグラフで表示されます。年収や受給開始年齢といった条件も簡単に変更できます。繰り下げ・繰り上げによって受給額がいくら変わるか、試算をおすすめします。

ちなみに、国民年金と厚生年金は、別々に繰り下げることができます。国民年金は受け取りつつ、厚生年金だけを繰り下げる…といった方法も可能です。

繰り下げる前にチェックしておきたいこと

注意したいことは、年金からは税金や社会保険料が天引きされるということ。
収入や世帯構成、居住地などによって異なりますが、おおむね1~2割程度が差し引かれると考えてください。
繰り下げ受給で収入が増えると、その分、税や社会保険の負担が大きくなる可能性もあります。

加えて、繰り下げる前には「加給年金」の対象となるかも確認してください。
加給年金は、会社員などで厚生年金に20年以上加入した人が65歳になったとき、生計を維持する年下の配偶者がいると、厚生年金に加算される制度です。条件を満たせば、配偶者が65歳になるまでの間、年額約39万円です。

加給年金は、厚生年金の加算なので、厚生年金を繰り下げると、その間は支給されません。
何歳まで生きるかによっても異なりますが、年の差が大きいほど、加給年金の受取額も大きくなります。
たとえば、3歳年下の妻がいる会社員の場合、3年間×39万円=117万円の加給年金が受け取れます。
仮に、3年間繰り下げた場合の増額率は25.2%の増額。増額された厚生年金と加給年金を比較しておきましょう。年金事務所などで相談することもできます。

まとめ 繰り下げのメリットは大きい

繰り下げ受給のメリットは、やはり増額された年金が一生涯続く、ということ。何歳まで生きるかわからない今、できるだけ年金を増やしておくと安心です。
特に、女性は年金額が少ない人も多く、長寿なので、繰り下げ受給を選択した方が有利な年金を受け取れる可能性が高そうです。夫婦の世帯であれば、妻の年金だけ繰り下げておくのも良いですね。

また、繰り下げ期間中に受け取らなかった年金は、任意のタイミングで一括受け取りすることもできます(この場合、以降に受け取る年金は増額されません)。急にお金が必要になった、健康状態が悪化した…など、まとまったお金が必要になった時でも、一括で受け取ることができます。

年金は「長生きに備える保険」。総受給額だけを考えるのではなく、それぞれに合った必要なタイミングで、受給をスタートさせましょう。

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経済エッセイスト

井戸 美枝 氏

ファイナンシャルプランナー CFP®、社会保険労務士。
生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。
経済エッセイストとして活動し、「難しいことでもわかりやすく」をモットーに数々の雑誌や新聞に連載を持つ。
近著に『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!増補改訂版』(日経BP)(別窓) などがある。

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