コラム
掲載日
2022.5.7

「円」の常識が崩壊
もはや「リスクオフの円買い」は通用しない世界なのか?

Writer

株式会社ZUU

(画像=PIXTA)

「リスクオフの円買い」という相場格言がある。いや、「あった」と言ったほうが適切かもしれない。有事の際は円が買われるという意味だが、ロシアのウクライナ侵攻では円が買われる傾向になっていない。国際マーケットにおける円の常識は崩壊しつつあるのか。

「リスクオフの円買い」とは?

「リスクオフの円買い」における「リスクオフ」とは、投資資産をリスクが高めの資産からリスクが低めの資産に移す動きのことを指す。つまり、リスクを極力回避しようという投資家の行動を意味している。

ちなみに対義語は「リスクオン」で、リスクが高い投資対象に資産を移し、多少のリスクを抱えても積極的に高いリターンを狙おうという動きのことを指す。

投資家がリスクを抑えたくなるときは、相場の先行きが懸念されるときだ。例えば、株式を保有したまま株式相場が大幅に下落すれば、保有株式の価値は大きく目減りする。そのため投資家は株式を売り、相場の下落が影響しないような資産の保有に切り替えようとする。

「リスクオフの円買い」とは、こうした相場の先行きが不透明な中で、「安全資産」と呼ばれる日本円を買う動きのことを指す。特に戦争などの有事は相場の先行きの不透明感を一気に高めるため、「有事の円買い」という呼ばれ方もする。

歴史における経験則が生んだ相場格言

この「リスクオフの円買い」は歴史における経験則として、投資の世界で相場格言として使われるようになっていた。

例えば、2001年9月に米同時多発テロが起きた際、ドル円相場は円高方向に4円近く動いた。

2008年に起きたリーマン・ショックでは、この年の9~12月にかけて20円以上円高方向に振れた。2011年3月の東日本大震災発生後は、3~10月にかけて7円以上円高が進んだ。新型コロナウイルスの感染拡大が起きた2020年は、3月~12月にかけて6円以上の円高となった。

しかし、ロシアがウクライナへ侵攻した2022年2月24日以降、しばらくは円高方向に為替レートが振れず、逆にその後、円安方向に為替レートが動き、市場関係者を驚かせた。「リスクオフの円買い」の相場格言が意味することの逆の現象が起きたわけだ。

具体的には、ドル円レートは115円前後で推移している状況が続いていたが、3月10日に一時116円台に乗せ、117円、118円、119円と、するすると円安方向に動いていった。3月28日には125円台に乗せ、2015年8月12日以来の水準となった。

ウクライナ侵攻では「円買い」は起きなかった

では、ロシアによるウクライナ侵攻では、なぜ「リスクオフの円買い」という相場格言が当てはまらない現象が起きたのか。

為替レートは世界中の市場関係者のさまざまな思惑によって動くため、その背景を正確に説明するのは簡単ではない。しかし、「安全資産」としての日本円の地位が揺らいでいることが原因だと分析する市場関係者が多い。

日本円への信頼が揺らぎ始めている理由は何か?

日本円が安全資産と言われてきた理由は、日本の貿易収支は長らく黒字であり、円の価値が低くなりにくい状況が続いてきたからだ。日本の貿易収支が黒字だと、貨幣の需給の関係上、円の価値が低くなりにくく、日本円の安全資産としての信用度が高くなる。

しかし、日本では近年、貿易赤字となる月も出てきており、安全資産としての円の信頼性は揺らぎつつあった。

貿易黒字の牽引役はこれまで、多数の製品を海外に輸出する製造業だった。しかし、製造業界の企業が安価な労働力などを求めて海外に拠点を設けるケースが増え、工業製品の輸出ルートが「日本から海外」ではなくなりつつある。

また、東日本大震災の発生後、国内の原子力発電所による発電量が減り、火力発電のために化石燃料の輸入を増やさざるを得なかったことも、貿易黒字の縮小の要因となった。そしてロシア・ウクライナ情勢の悪化に伴い、原油や天然ガスの先物価格が高騰したことで、化石燃料を多く輸入するようになった日本の貿易収支がさらに悪化することに懸念が高まった。

なおロシア・ウクライナ情勢の悪化で原油の先物価格が高騰したのは、世界有数の石油や天然ガスの産出国であるロシアに対し、欧米各国などが経済制裁を発動したことにより、ロシアからの化石燃料の供給に黄信号が灯ったからだ。

今後も有事の際に同じような現象が起きる?

最後になるが、確かに今回のロシアによるウクライナ侵攻では、「リスクオフの円買い」は起きていない。しかし、それは今回のみの現象かもしれない。

「リスクオフの円買い」が本当にあてはまらなくなったかどうかを本格的に見極めるためには、次、さらには次の次の有事や経済危機などで、ドル円レートがどのように推移するかを確認する必要があるといえるだろう。

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株式会社ZUU

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