コラム
掲載日
2022.1.22

止まらないアメリカのインフレ、世界経済にどう影響する?

Writer

株式会社ZUU

(画像=PIXTA)

コロナ禍から景気が急回復しているアメリカで、インフレが加速している。これまで「インフレは一過性のもの」との見解を重ねてきた米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長がインフレの継続を示唆した今、世界経済への影響が懸念されている。

「良いインフレ」と「悪いインフレ」

インフレーション(Inflation)の略であるインフレとは、物価が一定期間継続的に上昇する状況を指す。

インフレは大きく分けて3種類ある。需要が生産能力を大幅に上回った時に起こる「デマンド・プル・インフレ」、生産コストの上昇により生じる「コスト・プッシュ・インフレ」、現在のインフレ率が継続するという適応的期待に起因する「ビルト・イン・インフレ」だ。

好景気で需要が拡大した際に起こるデマンド・プル・インフレは、賃金が上昇し消費や雇用が活発になるため「良いインフレ」とされている。また、インフレによって通貨の価値が下がるため、海外からの観光客や輸出が増加するといった経済効果も期待できる。

これに対してコスト・プッシュ・インフレは「供給ショックインフレ」とも呼ばれ、輸入産業や消費者の生活の向かい風となるため、「悪いインフレ」とされている。コスト・プッシュ・インフレの典型例は1970年代の石油ショックで、その、インフレと不況が同時進行する「スタグフレーション」を引き起こした。

なぜアメリカでインフレが起きているのか?

「消費者物価指数(Consumer Price Index、以下CPI)」という統計指標がある。各国が、物価の動きを把握するために毎月公開しているデータだ。

アメリカの10月のCPIは前年同月比で6.2%上昇し、1990年以来最大の伸び率を記録した。特に生活必需品の伸び率が高く、食品は前月比5.3%、ガソリンは6.1%、燃料油は12.3%と大幅に値上がりしている。FRBのインフレ率の目標である2%を、はるかに上回る数字だ。

アメリカのインフレを引き起こしている要因は複数ある。「サプライチェーンのボトルネック(供給網の制約)の悪化」「需要の急激な拡大」「世界的エネルギー価格の上昇」などだ。

コロナ禍で生産の停止や縮小、輸送遅延、人手不足による物流の停滞が起こったが、経済活動が再開したことで需要が急拡大した。需要過多は、インフレを引き起こす。

これに拍車をかけているのが、世界的なエネルギー価格の高騰だ。原料から輸送までサプライチェーン全体のコストを押し上げ、それが消費者物価に転嫁されているのだ。

つまり、現在アメリカで消費者の生活を圧迫しているインフレはコスト・プッシュ・インフレであり、「悪いインフレ」といえる。デマンド・プル・インフレの要素も内包しているが、極端な物資不足によって生じる物価の異常な高騰は、経済に大きなダメージを与える。

アメリカの景気回復が、大規模なコロナ景気刺激策に支えられている点も指摘されている。金融緩和や給付金を含む「巨額のバラマキ」が、ドルの価値を低下させているというのだ。

世界経済への影響は?

アメリカのインフレは、すでに世界の経済や金融市場に影響を及ぼしている。

インフレ局面では、通貨の価値が下がる。中央銀行は物価を安定させて通貨の価値を維持するために、政策金利を引き上げる。金利が上がると消費や投資が低迷し、何とかして商品やサービスを売りたい企業間の価格競争を誘発する。すると物価が下がり、インフレが収束に向かう。

アメリカのCPIの伸びが加速しているということは、インフレが予想よりも長期にわたって継続する可能性がある。その結果、利上げ開始時期が前倒しになる、あるいは債券購入プログラムの縮小(テーパリング)ペースが加速するシナリオも考えられる。実際、パウエル議長は2021年11月30日、インフレ抑制策として債券購入プログラムのテーパリング(段階的縮小)の加速を検討する意向を表明した。

アメリカの金利動向は、世界経済から資産価格まで広範囲に影響を与える。FRBがテーパリングの加速を示唆したことにより、市場では利上げ前倒しの観測が一気に強まった。S&P500やナスダック総合指数、ダウ工業株30種平均が軒並み低下。ニューヨーク原油先物相場は8月下旬以来初めて1バレル65ドル(約7,330円)を割り込み、米・英・独の10年債券利回りが落ち込むなど、金融市場が大きく動揺した。

デフレが続く日本でも物価上昇の兆し?

インフレに対して、物価が下がり続ける状況を「デフレ(デフレーション、Deflation)」と呼ぶ。アメリカをはじめとする先進国でインフレが進んでいるにも関わらず、日本では30年以上にわたってデフレが続いている。この特殊な状況は、コロナ禍でもさほど変化が見られない。

総務省が発表した2021年10月の総合CPIは前年同月比0.1%、生鮮食品およびエネルギーを除く総合は0.7%と、アメリカと比べ物にならないぐらい低い。

2020年8月にCPI基準が改定され、物価指数が下方修正されたことも要因のひとつだが、根底には「賃金が上昇しないため物価を上げられず、コストを転嫁できない。物価を上げられないため、賃金を上げられない」という負のループに陥っている現状がある。

バブル崩壊以降、消費者と企業に「安値思考」が根付いていることも足かせとなっている。インフレ国の消費者は価格が上がっても必要であればお金を出すが、日本ではそうはいかない。企業が値上げに踏み切るとたちまち反発を買い、収益の悪化を招くリスクが高いからだ。

このような慢性的デフレが日本の経済成長を妨げていることが指摘される中、水面下では物価上昇の兆しが見えるとの見方もある。

加速するインフレは不安定な経済回復の象徴?

「靴に石ころが入ったまま歩いているようなものだ」。パンデミックからのおぼつかない経済回復を、IMFのゲオルギエワ専務理事はこう表現した。エコノミストの予想を裏切って加速し続けるアメリカのインフレは、不安定な経済回復の象徴といえるかもしれない。

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