コラム
掲載日
2022.1.28

退職後の家計のヒント 退職金の使いかた

Writer

経済エッセイスト

井戸 美枝 氏

退職後の不安を減らすために

最近、退職後のお金の相談が増えています。
「年金と退職金で暮らしていけるのか」「医療や介護の費用はいくらかかるのか」…。不安に思う人も少なくありません。

こうした相談を受けたときは、私は「退職後の収支」をざっくり試算することをおすすめしています。
収支の目安がわかれば、「年金の受け取り時期」や「退職金の使い方」、あるいは「何歳まで働くか」といったライフプランを考えることができます。何より、具体的な数字をみれば、漠然とした不安はなくなります。

本コラムでは、退職後の収支の確認方法や、気をつけたいポイントをご紹介しましょう。

退職後の「入」と「出」何がある?

退職後の「入ってくるお金」には、国民年金・厚生年金といった「公的年金」、勤め先から受け取る「退職金」や「企業年金」、iDeCoなどの「私的年金」があります。
いわゆる収入ではありませんが、「預貯金」や「生命保険」なども、ここでは入ってくるお金として考えます。

「出ていくお金」には、毎日の「生活費」をはじめ、車・家電の買い替え、家のリフォーム費用、冠婚葬祭費などの「特別な支出」、「医療・介護の費用」などが挙げられます。

年金受給額はハガキに記載されている

具体的にみていきましょう。

まずは「公的年金」です。
公的年金の受給額は、毎年誕生日月に送られてくる「ねんきん定期便」で確認できます。
50歳以上の人の「ねんきん定期便」には、現状のまま60歳まで働き続けた場合の「年金見込み額」が記載されています。会社を辞めたり、お給料が大きく上下したりしない限り、記載されている受給額から大きく変わることはありません。
「ねんきん定期便」が手元にない場合は、ウェブサイト「ねんきんネット」でも確認できます。

つづいて「退職金」や「企業年金」です。
退職金・企業年金の仕組みは、それぞれの会社によって異なります。金額や受け取り方法など、勤め先の人事部や総務部に問い合わせるのが確実でしょう。退職セミナーや説明会を開いている企業もありますね。
直接聞きづらい…という場合は、就業規則の「退職金規定」を確認すると良いでしょう。「退職金額の計算」「年金給付額の計算」といった条文に詳細が記載されているはずです。

注意したいのは、年金から税金や社会保険料が天引きされるということ。おおむね受給額の1割程度が天引きされる、と考えておきましょう。

支出の確認 家計簿が有効

次に「支出」をチェックしてみましょう。

退職した後の支出は、現在の支出から、不要になるであろう支出を差し引きます。たとえば、スーツ代、交際費、外食の費用、生命保険や就業不能保険の保険料など…ですね。

一般的に、退職すると支出は減ります。現在の支出が細かくわからない場合は「いまの生活費の7割~8割」を目安とすると良いでしょう。

ただ、詳細に支出を確認したい場合は、やはり家計簿をつけるしかありません。
最近は、スマホやパソコンのアプリなどで、簡単に支出を記録することができます。クレジットカードを登録したり、レシートを撮影したりするだけで、支出を入力できるものもあります。

家計調査では…

いかがでしょうか。「年金」と「生活費」がわかれば、ある程度退職後の家計がイメージできるかと思います。
理想をいえば、確実な収入源である「公的年金」で月々の「生活費」をまかなう、それとは別に「預貯金」などで、「医療・介護の費用」を準備しておければベストです。

ちなみに、2019年の「家計調査」(※1)によると、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯(高齢夫婦無職世帯)の1カ月あたりの消費支出は239,947円。対して、収入から税金や保険料を差し引いた「可処分所得」は206,678円でした(実収入は237,659円)。あくまで平均ですが、毎月3万円程度の赤字となっているようです。

(※1) 総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2019年(令和元年)Ⅱ 総世帯及び単身」(別窓) P18「高齢夫婦無職世帯の家計収支」より(2020年の家計調査は、新型コロナウイルスの影響が見られるため、前年のものを参照)。

高齢夫婦無職世帯の家庭収支(2019年)の表 夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの高齢夫婦無職世帯の1カ月あたりの消費支出は239,947円。収入から税金や保険料を差し引いた「可処分所得」は206,678円(実収入は237,659円) 約3万円の赤字

図1 総務省「2019年 家計調査」より転載

この家計調査では、住居費が支出の5.7%を占めています。家賃がからない会社員の世帯であれば、公的年金で生活費をまかなえる可能性があります。
一方で、フリーランスや自営業者の人は、加入が義務付けられているのは国民年金のみ。上の図のように社会保障給付だけで生活していくことは難しいでしょう。

年金を増やす「繰り下げ受給」

年金が生活費よりも大幅に少なくなりそうであれば、公的年金を増やす「繰り下げ受給」を検討してください。

国民年金・厚生年金は、本来「65歳」から受け取り始める仕組みです。が、「繰り下げ受給」といって、66歳以降の希望する時点に受給開始を遅らせることができます。

受給開始を1カ月遅らせるごとに金額は0.7%増えます。たとえば、12カ月繰り下げて66歳で受け取ると「8.4%」の増額。70歳まで遅らせると「42%」増額されます。

増えた年金は一生涯続く

大きなポイントは、増額された年金は一生涯続くということ。
つまり、繰り下げ受給で生活費をまかなえるくらいにまで年金を増やしておけば、「何歳まで生きるかわからない」というリスクを減らすこともできます。

繰り下げている間は、それまでの貯金や退職金、企業年金などで生活費をまかないます。退職金は年金受給開始までの「継投資金」、最後に公的年金にバトンタッチする、というイメージですね。
そこで、上で行った試算を目安に、預貯金や退職金で何年程度の生活費をまかなえるか、ざっくり計算してみましょう。

退職金や預貯金が少なければ、継続して働くことを検討してください。
収入があれば、預貯金や退職金を取り崩す金額は少なくなります。もちろん、フルタイムで働く必要はなく、毎月の赤字分を埋められれば、家計は安定します。

「おひとりさま」の期間 介護費用の目安は500万円

夫婦であれば、女性の公的年金を優先的に繰り下げておくことをおすすめします。
2020年の日本人の平均寿命は、女性が87.74歳、男性が81.64歳。女性は、夫が亡くなり妻が1人で生活する、いわゆる「おひとりさま」になる可能性があります。

このおひとりさまの期間は、1人で生活することが難しく、介護が必要になるかもしれないタイミングでもあります。
厚生労働省の「介護保険事業状況報告書」によると(※2)、要支援・要介護の認定を受けている65歳以上の人は669万人で、75歳を過ぎると介護を必要とする人の割合が急激に高くなっています。

問題は、介護や医療にかかる費用です。健康保険や介護保険で極端に高い自己負担がかかることはないものの、いくら用意しておけば良いか、モデルケースはないのが実情です。

生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」によると(※3)、介護期間の平均(現在介護を行っている人も含む)は、54.5カ月(4年7カ月)でした。

介護期間の表 4年から10年未満についてが最も多く28.3%、10年以上が14.5%、平均4年7ヵ月

生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」のデータから作成

介護に要した費用(介護保険サービスの自己負担含む)は、住宅改造や介護用ベッドの購入などの一時費用の合計が平均69万円、月々の費用が平均7万8,000円とのこと。
単純に合算すると、69万円+(78,000円×54.5カ月)=494万1,000円。1人あたりの介護費用の平均は約494万円ということになります。

介護費用の表 一時的な費用の合計は50万から150万が15%、月額では5万から10万が20%、平均7.8万

生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」のデータから作成

もちろん健康状態には個人差があります。一概には言えませんが、公的年金を繰り下げて年金額を増やしつつ、いつでも引き出せる普通預金などに500万円程度準備しておくと良いかもしれません。

家計のダウンサイズ化も1つの手

ここまでは、収入を増やす方法をご紹介してきましたが、支出を減らす方が簡単な場合もあります。

退職後は、車にかかる費用、通信費、生命保険料…など、本当に必要かどうかを見直すと良いかもしれません。
たとえば、住宅。子どもが独立して、部屋が余っている、家が大き過ぎる、といったケースもあります。賃貸の場合は、2人暮らしに適した家に住み替えるのも良いかもしれません。交通の便が良ければ、車を手放すのも手ですね。年間20~30万円の支出を減らせます。
また、会社の部下の冠婚葬祭や、子どもの結婚式などの祝い事には、つい高額な援助をしがちです。収入が減ることを念頭に、過剰な援助は避けたいところです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
老後の生活費を確保する対策には、「年金の繰り下げ受給」が大変有効です。

ただ、繰り下げている間は、働いたり、退職金や預貯金を取り崩したりして生活することになります。「貯金が減っていくのが不安…」と感じることもあるかもしれません。そういった場合は、やはりできるだけ長く働いて収入を得た方が良いでしょう。

今、国も高齢者に働いてほしい、そして税金や保険料を納めてほしい、と考えています。高齢者が働きやすい、働くと有利になるような制度が作られることは間違いありません。65歳以降も、会社員として働くのであれば厚生年金は増えます。

とはいえ、そもそも仕事はあるのかという問題もあります。人によってはないかもしれませんし、そもそも健康でないと働けません。将来のことはわかりませんが、あまり深刻にならず、長く働けるような仕事を探しておくのも1つの手です。

執筆協力:ファイナンシャルライター 瀧 健

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経済エッセイスト

井戸 美枝 氏

ファイナンシャルプランナー CFP®、社会保険労務士。
生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。
経済エッセイストとして活動し、「難しいことでもわかりやすく」をモットーに数々の雑誌や新聞に連載を持つ。
近著に『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!』(日経BP)(別窓) などがある。

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