コラム
掲載日
2021.11.26

退職金は、一括と分割での受け取りとどちらが得か

Writer

経済エッセイスト

井戸 美枝 氏

退職金 企業によって異なる

皆さんはご自身の退職金について、くわしくご存知でしょうか。
退職金といえば、一括で受け取る「退職一時金」をイメージする方が多いかもしれません。が、退職金の制度は法律で定められているわけではありません。それぞれの企業によって異なります。

退職金の制度は主に3つあります。
定年時に全額をまとめてもらう「一時金形式」、分割して受け取る「年金形式」、これらを併用する「一時金と年金の併用形式」です。併用形式では、一時金と年金の割合や金額を自分で選べることもあります。
日本経済団体連合会と東京経営者協会の調査(※1)によると、併用形式を採用している企業が、2018年9月末時点で7割超を占めているようです。

また、企業や勤続年数によっては、退職金が支給されない場合もあります。必ず確認しておきましょう。
自分の退職金の有無や金額を調べる際は、勤め先の人事部や総務部に問い合わせるのが確実です。直接聞きにくい場合は、就業規則の「退職金規定」を確認してください。「退職金額の計算」「年金給付額の計算」といった条文に詳細が記載されているはずです。

退職金 受け取り方によって手取りが変わることも

さて、そんな退職金も課税の対象です。
注意したいのは、受け取り方で手取りや社会保険料が変わるということ。というのも、「一時金形式」と「年金形式」では、税法の扱いや控除の仕組みが異なるからです。

一時金で退職金を受け取ると、社会保険料には影響しない 退職所得控除額計算例の図
退職所得控除早見表

「一時金」で受け取る場合は、税法上「退職所得」扱いとなり、「退職所得控除」が利用できます。退職金がこの控除内に収まれば、税金はかかりません。

退職所得控除は、その会社に勤めた年数によって決まります。勤続年数20年までは年40万円、20年を超えると年70万円ずつ増えていきます。たとえば、22歳から60歳まで38年間勤務した場合、(20年×40万円)+(18年×70万円)で、控除額は2,060万円となります。
控除額を超えると、「超過額の半分」が課税対象になり、他の所得と分けて税率が決まります。

ちなみに、この勤続年数は「切り上げ」で計算されます。仮に「1年と1日」の勤務でも、勤続年数は2年として扱われます。退職日が選べるのであれば、有利になる日程を選ぶと良いでしょう。

年金形式 社会保険料も考慮を

「年金形式」で受け取る場合は、税法上は「雑所得」として扱われ、「公的年金等控除」という控除の対象になります。
公的年金等控除は収入や年齢によって異なります。65歳以上で収入が330万円未満であれば年間110万円、65歳未満で収入が130万円未満であれば年間60万円の控除枠が設けられています。
控除額を超えた分は、「全額」が総合課税の対象となります。

文字通り、公的年金等控除には「国民年金」や「厚生年金」といった公的年金や、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」(※2)で受け取る金額も合算されます。「ねんきん定期便」などで将来の年金額を確認しつつ、控除内に収まるように受け取り方を工夫すると税負担を少なくできます。

※2  iDeCoを受け取る際も「一時金形式」「年金形式」「併用形式」から選ぶことができます。

ただ、先述した通り、年金形式の退職金は「雑所得」として扱われ、健康保険料などの計算に影響します。所得が増えると社会保険料の負担が増える可能性があるため注意が必要です。

年金で退職金を受け取ると、雑所得の対象で社会保険料に影響する 公的年金等控除例の図

たとえば、65歳の方(※3)が退職金3,000万円を受け取る場合。公的年金203万円とする。
「一時金形式」で3,000万円を一括受け取りすると、その年の所得税が48万5,200円、社会保険料は25万5,160円です。
「一時金形式」で1,500万円、残りの1,500万円を「年金形式」で20年間(年間75万円・運用は考慮しない)かけて受け取ると、1年間の所得税・住民税は8万400円、社会保険料は38万6,390円となります。
一方、3,000万円全額を「年金形式」で20年間(年間150万円・運用は考慮しない)かけて受け取った場合、1年間の所得税・住民税は17万5,100円、社会保険料は45万2,454円となります。

※3  65歳(配偶者扶養あり)、国民年金と厚生年金(38年間加入)で203万円、勤続年数30年、DC20年加入の場合。保険料は東京都新宿区(令和3年度)で試算。

60歳以降の生活 想像してみよう

このように、税や社会保険の負担面では、退職所得控除額の上限まで「一時金」で受け取り、残りを公的年金等控除の範囲に収まる形で「年金」で受けとることができればベストです。

ただ、実際のところ、税や社会保険の負担の面だけではなく、「何歳まで働くか」「資産はどれくらいあるか」「年金はどれくらい受け取れるか」など、人それぞれの事情によって退職金の最適な受け取り方は異なります。

たとえば、65歳以降も働きたい場合。一時金と年金方式を併用している企業であれば、働いている期間は公的年金を受け取らず、一定額以下を「年金方式」で受け取るという手もあります。
というのも「年金方式」では、年金を受け取り終えるまで企業が一定の利率で運用することがあります。この利率は「給付利率」といい、現状2%台前半のところが多いようです。一時金で受け取った場合、何もせずに放っておくと金利は付きません。一定の利回りが約束されている「年金方式」で少しでも受け取れる金額を増やすことができます。
また、公的年金は1ヶ月遅らせるごとに年金は0.7%ずつ増え、70歳まで繰り下げると支給額は42%増えます。令和2年のモデル年金支給額は月額22万724円で年間265万円程度ですが、これを70歳からの受給にすれば、年間の受給額は376万円になります。月額約31万円が生涯にわたって上乗せされるため、退職後の家計は安定するでしょう。

一方、退職した時点で住宅ローンが残っていたり、子や孫の教育費を負担する可能性がある場合は、「一時金」で受け取ることが有力な選択肢になります。ローンを返済する、教育費を確保することによって、退職後の家計に目処がつくだけでなく、心理的な不安も解消されます。

いかがでしょうか。今、退職金や年金の受け取り方は多様化しています。ベストな受け取り方は人それぞれ異なります。退職する直前に考えるのではなく、事前に退職後のライフプランをふまえながら検討したいところです。
また、退職金が控除額を大幅に超えそうな場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

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経済エッセイスト

井戸 美枝 氏

ファイナンシャルプランナー CFP®、社会保険労務士。
生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。
経済エッセイストとして活動し、「難しいことでもわかりやすく」をモットーに数々の雑誌や新聞に連載を持つ。
近著に『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!』(日経BP)(別窓) などがある。

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