- 掲載日
- 2021.10.15
遺言に書けること・書けないこと
~遺言事項とは~(前編)
Writer
遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事
齋藤 弘道 氏
この連載では、終活から相続に関すること、そして遺言について考えてきました。遺言については「遺言能力」について解説しましたが、今回は「遺言事項」を中心に考えていきましょう。

遺言事項とは
遺言書に何を書いても構わないのですが、法律上の効力が生じるものは定められており、これを「遺言事項」といいます。遺言事項以外のことを遺言書に書いても、一般の手紙と同じように気持ちを伝えることはできますが、法的には意味はありません。例えば、「葬儀は○○式で」「実家の墓に埋葬してほしい」などと書いても、そのとおりになるとは限りません。遺言は財産配分や処分などに大きな力を発揮しますが、何でも実現できる魔法の書類ではありません。
遺言に書けること・書けないことを知って、遺言を有効に活用するとともに、遺言以外の対処法についても見ておきましょう。遺言事項と遺言事項以外は、以下のように分類することができます。これらについて、一つひとつ解説していきます。
遺言事項 |
---|
財産に関すること |
身分に関すること |
遺言の執行に関すること |
遺言事項以外 |
---|
付言事項に書けること |
遺言以外で解決すべきこと |
財産に関する遺言事項
遺言事項のうち、財産に関することには以下の事項があると言われています。
- (1)相続分の指定または指定の委託
- 法定相続分とは異なる財産配分を遺言で指定することができます。
- (2)遺産分割方法の指定または指定の委託
- 相続人の誰にどの財産を取得させるのかを指定することができます。
- (3)遺贈
- 遺産の全部または一部を無償で譲与することです。包括遺贈と特定遺贈があります。
- (4)遺産分割の禁止
- 5年を超えない期間で遺産の分割を禁止することができます。
- (5)信託の設定
- 通常、財産の信託は契約で締結しますが、遺言で設定することもできます。
- (6)財産の拠出(寄付や財団法人の設立)
- 財団法人などの設立に必要な寄付を遺言ですることができます。
- (7)特別受益の持戻しの免除
- 遺贈や生前贈与した財産を相続財産に算入しない意思表示をすることができます。
- (8)相続人の担保責任の指定
- 相続した財産や債権について相続分に応じた責任がありますが、それを変更することができます。
- (9)遺留分侵害額の負担割合の指定
- 受遺者が複数いる場合の遺留分侵害額請求の負担割合について指定することができます。
- (10)生命保険受取人の指定
- 生命保険金の受取人を保険契約とは別に指定または変更することができます。
特に(1)相続分の指定(2)遺産分割方法の指定(3)遺贈は、よく使われます。(1)は「長男に3分1、二男に3分の2」のように割合を指定し、(2)は「A不動産を長女へ、B不動産を二女へ」のように個別に指定します。(3)は相続人以外の個人や団体へ財産を分けたい場合に「○○へ遺贈する」のように書きます。なお、いわゆる「相続させる遺言」は2019年7月1日施行の民法改正により「特定財産承継遺言」として規定され、特定の財産を特定の相続人に承継させる場合に利用されています。
身分に関する遺言事項
次に、遺言事項のうち身分に関することには、以下の事項があります。
- (1)認知
- 非嫡出子について父親が遺言で認知することができます。
- (2)推定相続人の廃除またはその取消
- 著しい非行などがあった相続人の相続権を奪うことを家庭裁判所に申立する内容です。
- (3)未成年後見人の指定、未成年後見監督人の指定
- 未成年者の親権者が誰もいなくなった場合に備えて、遺言で指定することができます。
このうち(3)は遺言でしか指定できませんが、(1)と(2)は生前にもできますので、特別な事情がなければ先送りせずに生前に手続きした方が、残された家族の混乱を防ぐことになりそうです。
遺言の執行などに関する遺言事項
遺言事項の最後、遺言の執行などに関することには、以下の事項があります。
- (1)遺言執行者の指定または指定の委託
- 遺言執行者(遺言内容を実現する職務権限を有する人)は家庭裁判所で選任することもできますが、遺言で指定することもできます。
- (2)祭祀主宰者の指定
- 相続財産とは別に、祭具(仏壇、位牌など)やお墓などの祭祀財産は地域の慣習に従って祭祀主宰者が承継しますが、遺言で祭祀主宰者を指定することもできます。
- (3)相続準拠法の適用の指定
- 外国籍の方の相続は、原則としてその方の本国法の規定に従いますが、日本の「遺言の方式の準拠法に関する法律」や「法の適用に関する通則法」との関係で、日本の法律が適用できる場合があり、自分の相続に関して準拠する国を指定することができます。
この中でも(1)は遺言内容を確実に実現するために重要です。遺言の執行には法律の知識や公平性が求められますので、できれば相続人以外の専門家を指定すると良いでしょう。また、その専門家と遺言作成段階で打合せして、遺言執行者となることの承諾を得ておき、合意した遺言執行報酬を遺言書に記載しておくとさらに確実です。
また、(2)祭祀主宰者は生前に指定することもできます。特に、相続人が誰もいない方や、疎遠でお墓を誰にも頼めない方は、遺言ではなく、生前に整理しておくと良いでしょう。
後編では、遺言事項以外のことについて、考えていきたいと思います。
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Writer
遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事
齋藤 弘道 氏
みずほ信託銀行の本部にて遺言信託業務に従事し、営業部店からの特殊案件やトラブルに対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げ(後の全国レガシーギフト協会)。2014年に野村信託銀行にて遺言信託業務を立ち上げた後、2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」「非営利団体向け不動産査定取次サービス」等を次々と実現。
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