コラム
掲載日
2021.9.29

遺言を無効にしないために ~遺言能力とは~(後編)

Writer

遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

齋藤 弘道 氏

前回に引き続き、「遺言が有効に機能するための条件」のうち、「遺言能力」について詳しく見ていきます。

遺言能力とは

遺言能力には「年齢」と「能力」の観点があるとお伝えしましたが、その能力とは「遺言内容を理解し、遺言の結果を認識できる意思能力」であるとも言えます。その能力が、遺言作成時において遺言者に必要だと民法は定めています。

しかし、「遺言内容を理解しているか」「遺言の結果を認識できるか」を客観的に測る指標はなく、このことが遺言の有効/無効の争いをさらに難しくしている原因とも考えられます。では、遺言作成時における遺言能力の有無について、どのような判断基準があるのか、遺言の無効を争う裁判例から確認してみましょう。

遺言能力の判断基準

これまでの裁判例から、遺言能力の判断基準には以下の3点があると言われています。

  1. 精神医学的観点
  2. 遺言内容の複雑性
  3. 遺言の動機や理由など

これらについて、1つずつ確認していきましょう。

1. 精神医学的観点

遺言作成当時、遺言者がどのような状態にあったのかを、医学の観点から見るものです。意思能力(=判断能力)に影響を与える主な要因のひとつに認知症があります。この認知症の診断に利用されている「長谷川式簡易知能評価スケール」を遺言能力の一つの判断基準にするケースが多いようです。この長谷川式スケールは30点満点で、20点以下だと認知症の疑いありと判定されます。しかし、認知症だからと言って必ずしも意思能力が低いとは限らないこともあり、点数だけでは結論を出すことはできず、あくまでも目安だとされています。

また、医療記録・看護記録・介護記録や医師の診断書があれば、遺言者がどのような状態にあったのかを知る上では、有効な手段となります。こうした指標や記録から遺言能力を総合的に判断しています。

2. 遺言内容の複雑性

まさに「遺言の内容を理解し、その結果を認識できるか」の観点ですが、これには遺言内容の複雑さの度合いが関係します。例えば、「全財産をAに相続させる」というようなシンプルな内容の遺言であれば、意思能力がある程度低くても内容を理解することが期待できますが、「金融資産のうち100万円はAに、その残余の3分の2をBに、3分の1をCに」という内容の遺言の場合は、少し理解は難しくなりそうです。

実際に公正証書遺言を作成する場面でも、遺言者が自らの言葉で、遺言の趣旨を公証人に伝えることが求められます。信託銀行や弁護士などが遺言作成のサポートをする場合に、厳密さや正確性を重視するあまり、非常に複雑な遺言書文案を相談者に提示することがありますが、かえって「これほど難しい遺言を本当に理解していたのか」という問題を残しかねません。遺言作成のサポートをする信託銀行や弁護士などは、相談者の理解度を確認しながら、必要に応じて遺言内容を柔軟に修正するとともに、サポートを受ける遺言者も、提示された遺言内容が自分の言葉で説明できないくらい難しいと感じたときは、遠慮なく「わからない」」と伝えることも大切だと思います。

3. 遺言の動機や理由など

遺言書を作成する動機や遺言内容が、遺言者と相続人・受遺者との関係などから合理的であり、意思形成過程が自然で無理がないと判断されれば、意思能力はあったと判断される可能性が高くなります。

例えば、縁もゆかりもない団体に大金を遺贈するよりは、日頃から少しずつ寄付を行い、ボランティア活動にも参加している団体へ遺贈する方が、財産配分の判断に合理性があり、意思能力があったと認められやすくなります。

成年被後見人の遺言

それでは、判断能力の不十分な人を保護・支援する成年後見制度により、成年被後見人となった人が遺言を作成できないかといえば、一定の条件の下で認められる方法があります。その条件とは、「一時的に事理弁識能力を回復した時に、医師2人以上が立会い」「能力を欠く状態になかったことを医師が遺言書に付記して、署名捺印する」ことです。

しかし、「一時的に回復」したことを医学的・法的に判断することは困難であり、医師にとってもリスクがありますので、あまり現実的な方法であるとは言えません。このことからも、遺言は心身ともに健全なうちに書くことが重要なことがわかると思います。

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遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

齋藤 弘道 氏

みずほ信託銀行の本部にて遺言信託業務に従事し、営業部店からの特殊案件やトラブルに対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げ(後の全国レガシーギフト協会)。2014年に野村信託銀行にて遺言信託業務を立ち上げた後、2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」「非営利団体向け不動産査定取次サービス」等を次々と実現。

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