コラム
掲載日
2021.9.14

遺言を無効にしないために ~遺言能力とは~(前編)

Writer

遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

齋藤 弘道 氏

遺言は、自分の財産に関すること(相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈など)や身分に関することなど(認知、未成年後見人の指定など)について、遺言書の意思を書面に記したものです。遺言は遺言者の死亡によって効力が発生するものですから、その時に無効と判断されても、遺言者は亡くなっており書き直すことができません。せっかく書いた遺言が、有効に効力を発生するために必要なことを考えていきましょう。

遺言が有効に機能するための条件

遺言は書いただけでは単なる文書に過ぎませんが、これが使われて初めて目的を達成することになります。遺言が確実に使われるために必要な条件には主に次のことが考えられます。

  1. 法的に定められた形式に則って作成されていること。
  2. 遺言が適切に保管され、相続発生時に遺言執行者の手中にあること。
  3. 遺言の内容が、遺言者の意思を正しく表現していること。
  4. 遺言作成時において、遺言能力を有していること。

これらについて、一つひとつ見ていきましょう。

法的に定められた形式に則って作成されていること

遺言の種類は、主に自筆証書遺言と公正証書遺言があります。それぞれ次の形式要件が定められています。

遺言の種類 主な要件
自筆証書遺言 全文、日付および氏名を自書し、これに印を押すこと。
ただし、目録は自書であることを要しない。
公正証書遺言 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
公証人が遺言者の口述を筆記して読み聞かせること。
遺言者および証人が筆記を確認し、署名・捺印すること。
証人2人以上の立会いがあること。

この他にも、訂正方法、目録の作成方法、証人の資格などがあります。これらの要件を満たしていないと、遺言が無効となります。公正証書遺言の要件は公証役場で確認しますが、自筆証書遺言の要件は自分で確認しなければなりませんので、特に注意が必要です。

遺言が適切に保管され相続発生時に遺言執行者の手中にあること

公正証書遺言は原本が公証役場に保管されていますが、公証役場が遺言者の死亡を把握して遺言執行者や相続人などに連絡するシステムではありません。信頼できる身近な人に、自分が亡くなったときに遺言書の存在を遺言執行者に連絡するように頼んでおく必要があります。もし、適任と思われる人物がいない場合は、専門家に見守り契約で依頼しておく方法もあります。

自筆証書遺言は自宅などに保管することが多く、紛失・隠匿・偽造・変造のリスクがあります。このリスクを軽減する方法に、法務局による自筆証書遺言の保管制度があります。公的機関で保管されるため紛失のリスクがないだけでなく、家庭裁判所での検認が不要であることや、形式要件を法務局でチェックしてもらえることなど、多くのメリットがあります。さらに、相続発生後に特定の相続人が法務局に遺言書の閲覧などをした場合に、他の相続人・受遺者・遺言執行者に法務局が連絡するシステムがあります。これは公正証書遺言にもない機能です。

遺言の内容が遺言者の意思を正しく表現していること

遺言執行者が遺言執行の手続きをするとき、遺言者は亡くなっていますので、遺言書が頼りです。遺言執行者は遺言書に記載されていることを忠実に実行しますが、執行対象財産や人物を正確に特定できない場合や複数の解釈ができる場合は、判断に困ってしまいます。その場合の多くは、相続人や受遺者の利害が対立することになりますので、トラブルに発展する可能性が高くなります。

例えば、「預貯金を○○に遺贈する」と書くと、投資信託や公共債を保有していたとしても遺贈する財産には含まれないことになります。また、「株式を3分の1ずつ相続させる」と書くと、分割単位が単元株なのか1株なのか、端数をどうするのかわかりません。誰が見ても判断に迷わず執行できる内容が求められます。

遺言作成時において遺言能力を有していること

遺言能力には、2つの観点があります。1つは年齢、もう1つは「能力」です。どちらも民法に定めがあり、前者は「15歳に達した者は遺言をすることができる」とあります。多くの法律行為が20歳(民法改正で2022年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられます)からできるのに対して、15歳であれば財産や身分に関する意思能力が備わっているからであるなど、その理由にはさまざまな説があります。

また、後者は「遺言者は遺言をする時においてその能力を有していなければならない」とあります。遺言は遺言者の死亡で効力を発生するものですが、遺言能力は効力発生時(=死亡時)ではなく、遺言作成時に必要だとされています。遺言を作成する平均年齢は一般に75歳くらいであると言われていますが、遺言作成時に遺言能力があれば、その後に認知症などで意思能力を喪失したとしても、これにより遺言が無効になることはありません。

年齢とともに、特に80歳を超えると認知症にかかる割合が高くなる傾向があるという研究があります。「認知症=意思能力がない」ではありませんが、認知機能の低下が見られるようになってから遺言を作成すると、遺言の有効/無効の争いの原因となる場合があります。心身ともに健全なうちに、遺言を作成することをお勧めします。

認知症にかかっている方の割合 グラフ

出典:「日本における認知症の好悪礼者人口の将来推計に関する研究」
(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業)より算出

遺言能力については、後編でさらに詳しく見ていきます。

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齋藤 弘道 氏写真

Writer

遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

齋藤 弘道 氏

みずほ信託銀行の本部にて遺言信託業務に従事し、営業部店からの特殊案件やトラブルに対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げ(後の全国レガシーギフト協会)。2014年に野村信託銀行にて遺言信託業務を立ち上げた後、2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」「非営利団体向け不動産査定取次サービス」等を次々と実現。

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