コラム
掲載日
2021.8.31

なぜ争族は起きるのか?
トラブルになりやすいポイント(後編)

Writer

遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

齋藤 弘道 氏

前回に引き続き、相続に関する基礎知識のうち、特に「争族」につながりやすい法律について確認していきます。

「争族」イメージイラスト

遺留分の対象財産について

遺留分侵害額請求で請求額を算定する際に問題となるのが、対象財産(遺留分算定の基礎となる財産)の範囲です。被相続人の死亡時の遺産だけでなく、次の財産が対象となります。

① 被相続人の相続開始時点において有した財産
② 相続人への相続開始前10年以内の特別受益
③ 相続人以外への相続開始前1年以内の贈与
④ 遺留分権利者に損害を加えることを知っていた贈与(期間の制限なし)
⑤ 債務を控除

計算式にすると以下のとおりです。

遺留分の対象財産について計算式

特別受益とは、被相続人から相続人への遺贈および生計の資本としての贈与のことです。生計の資本としての贈与とは、広く生計の基礎として役立つ財産上の給付を言いますが、生命保険金を除いた生前贈与の大部分が該当すると考えて良いでしょう。③の「贈与」には、寄付行為、信託受益権の無償供与、無償での債務免除等も含まれます。

以上をまとめると、相続人に対する死亡前10年以内の生前贈与の大部分、および相続人以外(法人個人を問わない)への死亡前1年以内の贈与(寄付を含む)、ならびに遺留分権利者に損害を加えるべき事実を知って(加害の意思があるか否かは問わない)行った贈与(この場合は贈与の時期に制限なく死亡時から遡って算定される)が、相続財産に持ち戻されて遺留分が計算されることになります。

比較のために「特別受益者の相続分」の基礎となる相続財産を見ますと、次のように算定されます。
・上記①+②‘特別受益財産+上記④−上記⑤−⑥寄与分(寄与分については後述しています
遺留分の計算との比較では、③相続人以外への生前贈与が相続財産に加算されないこと、⑥寄与分が相続財産から控除されること(寄与者には控除後に算定された相続分に寄与分が加算される)、および②の特別受益については特に期間の制限がない点が特徴です。

これは、生前贈与した財産をすべて遺産分割協議の対象とすることを意味します。しかし、これではわざわざ生前贈与した意味がありません。しかし、遺言で「持ち戻し免除」の意思表示をしておけば、生前贈与した財産を相続財産へ含めずに遺産分割協議をすることができます。生前贈与をするのであれば、遺言を同時に作成しておくと良いでしょう。ただし、遺言で持ち戻し免除があったとしても、遺留分を侵害している場合は、遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求をすることができます。

以上のように、相続財産の範囲は、相続分計算と遺留分計算で取り扱いが異なりますが、この知識を相続人全員で共有されていないと争いの原因となる場合があります。必要であれば、専門家に中立的な立場でアドバイスを仰ぐのも良いでしょう。

なお、遺留分侵害額請求権には、以下の2つの期間制限があります。
(1)相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年(時効)
(2)相続開始の時から10年経過(除斥期間)

遺留分侵害額請求は当然に認められた権利ですので、その権利を行使しても「争い」とは言えませんが、遺言等の配分に異を唱えて金銭を請求する事実はありますので、お互いに気持ちの良いものではありません。遺言を作成する際には、遺留分を侵害しないように作成するなど、できるだけ争いの原因を作らない工夫も必要でしょう。

寄与分と特別寄与料

寄与分は、特定の相続人が、被相続人の生前の財産を増加や維持に特に貢献等があった場合や、被相続人の療養看護に貢献した場合に認められる遺産の取り分のことを言います。これは相続人に限って認められる制度でしたが、民法改正により、相続人以外の親族にも認められるようになりました。これが特別寄与料です。

寄与分も特別寄与料も、寄与者や特別寄与者が他の相続人に対して、金額を算定して請求します。当事者間で合意できれば良いのですが、まとまらない場合は家庭裁判所に調停を申し立てます。調停でも不成立となった場合は審判に移行します。ここまで来ると、あまり穏便な解決とは言えない状況です。

このような事態にならないためには、介護の働きに応じて報酬を都度支払う、特別寄与料相当額を遺贈する、などを準備することも考えられます。

介護の働きに応じて特別寄与料相当額を遺贈する、イメージイラスト

養子縁組

養子縁組は、養親と養子が必要書類を揃えて市区町村役場に届出するだけで成立する、意外に手軽な法律行為です。ただ、争族防止の観点から、留意すべき点がいくつかあります。

  • 両親がすでに亡くなり、子供も孫もいない方は、推定相続人が兄弟姉妹(第3順位)となりますが、その方が養子を迎えると、相続順位が第1順位の養子に変わる。兄弟姉妹が養子縁組の事実を知らないと、相続開始時に混乱する恐れがある。(相続順位については前編をご参照ください
  • いったん養子縁組すると解消(離縁)は簡単にできない。当事者の合意が必要となる。例えば、娘婿を養子(婿養子)とした後、娘と離婚した場合でも、養子を離縁できなければ相続権は引き続き残る。
  • 実子が2人いる状況で、一方の子供の子供を養子(孫養子)とした場合、他方の子供の相続分が減少するため、不満が出る場合がある。

こうした点を踏まえ、養子縁組する際には、養子縁組は後に戻れないことを前提として検討することをお勧めします。

相続人が見つからない場合

相続開始後の遺産分割協議の場面で、「行方不明の相続人がいる」「所在がわからない」ということが時々あります。そのような場合でも、その相続人が「いなかったこと」にはできません。

遺産分割協議をする手順として、話し合いを始める前に、法定相続人が誰であるかを確定するために、被相続人および相続人に関する戸籍謄本一式を取得します。前述の養子縁組がここで発覚する場合もありますし、後々の相続手続きでも必要になりますので、この手続きは省略できません。仮に行方不明の相続人がいたとしても、戸籍謄本を取得する際に同時に「戸籍の附票」を取得すれば、その相続人の住民票上の住所がわかります。大抵の場合、その住所に住んでいるはずです。手紙を送る、訪問するなどすれば連絡が取れることが多いでしょう。本当に不在の場合は、役所が住所を職権消除することがあります。

手を尽くして捜索しても見つからず、生死不明または行方不明の場合は、利害関係人として家庭裁判所へ不在者財産管理人の選任を請求することができます。そして、この不在者財産管理人が遺産分割協議に参加して、相続財産を分与します。このとき、不在者財産管理人は当該相続人の相続分相当の財産を分与するよう主張することが一般的なようです。

生死不明の状態が7年以上のときは、家庭裁判所に普通失踪の申し立てをすることができ、家庭裁判所が失踪宣告すると、生存が知られている最後の時から7年経過した時に死亡したものとみなされます。

こうした手続きには時間がかかりますので、相続税申告に間に合わないこともあります。住所が変わっても、携帯電話番号やメールアドレスは変わらないことが多いので、普段から連絡先を確保できるようにしておくと良いでしょう。

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齋藤 弘道 氏写真

Writer

遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

齋藤 弘道 氏

みずほ信託銀行の本部にて遺言信託業務に従事し、営業部店からの特殊案件やトラブルに対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げ(後の全国レガシーギフト協会)。2014年に野村信託銀行にて遺言信託業務を立ち上げた後、2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」「非営利団体向け不動産査定取次サービス」等を次々と実現。

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