コラム
掲載日
2021.7.30

死亡すると預金口座はなぜ凍結されるの?
預貯金の払戻し制度

Writer

遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

齋藤 弘道 氏

銀行の預金者が死亡し、その銀行に死亡の連絡をすると、その方の預金口座は入出金ができなくなります。この状態をよく「口座が凍結された」と言います。口座が凍結されると葬儀費用などの支払いに困るので、相続人が銀行に死亡の事実を伝えず、勝手にキャッシュカードで引き出すことがありますが、これは犯罪(横領や窃盗)になる可能性があります。合法的に預金を引き出す方法について考えていきます。

なぜ預金は凍結されるのか

合法的な預金引き出し方法を考える前に、そもそも死亡した方の預金口座はなぜ凍結されるのかを説明します。亡くなった方が遺言で指定した場合を除き、相続財産は法定相続人全員の共有の状態になります。共有の相続財産は遺産分割協議が調うまでは、財産がどの相続人のものか決まらないので、相続人のうち1人が預金を引き出そうとしても銀行は支払いに応じません。

実は、この後ご説明する民法改正より前から、相続預金の払い戻しは理論上可能でした。預貯金債権は法律上当然に分割され、相続人が法定相続分に応じて承継されるとされていたからです。しかし、預金引き出し後の遺産分割協議の結果、預金を引き出した相続人の配分がゼロになる可能性もあり、その相続人が引き出した金銭を使ってしまい戻せなくなると、他の相続人から銀行が支払いに応じた責任を問われるので、実態として銀行は遺産分割協議が調うまで支払いに応じていませんでした。

さらに、平成28年12月19日の最高裁大法廷決定により「相続された預貯金債権は相続財産に含まれ」(つまり遺産分割協議の対象となり)「相続人単独での払戻しは不可」とされたことから、預貯金の引き出しができないことが、決定的となっていました。

合法的な相続預金の引き出し方法

以上のように、葬儀費用など相続人の資金需要に対応できない状態でしたが、民法改正によって2019年7月1日より、「一定の範囲」で預貯金の払い戻しが認められるようになりました。

民法改正前

民法改正後

その「一定の範囲」とは以下のとおりです。

  • 死亡時の預貯金残高×法定相続分×3分の1
  • ただし、1つの金融機関あたり上限150万円

例えば、相続人が長男と次男の2人の場合、法定相続分は2分の1ずつですから、A銀行に600万円の預金があれば、長男は600万円×1/2×1/3=100万円を引き出すことができます。次男も同様です。

払い戻した預貯金は、相続人が遺産の一部分割により取得したものとして取り扱われ、後の遺産分割協議で取得することとなった額を超過した場合、その相続人は超過部分を清算する義務を負います。払い戻した銀行が責任を問われることはありませんので、払い戻し手続きは円滑です。

また、家庭裁判所に仮分割の仮処分を申請することにより、法定相続分まで仮払いが認められる場合もあります。

このようにして、銀行に死亡の事実を隠して預金を勝手に引き出すのではなく、合法的に預金の払い戻しができるようになりました。これが「預貯金の払戻し制度」です。

どの銀行に預金があるのか

相続人の資金需要に応える「預貯金の払戻し制度」は大変便利ですが、被相続人がどの金融機関と取引があったのかがわからないと、払い戻しを請求することができません。相続人は、通帳やキャッシュカードのほか、銀行からの手紙や取引残高報告書などを手掛かりに、取引金融機関を探すことになります。

この探す作業は大変です。「これで全部なのか?」と捜索に終わりがなく、もし発見できなければ「こんなに少ないはずがない、誰か使い込んだのか」と紛争の種にもなりかねません。預金者(被相続人)は相続人に負担をかけないように、生前に財産の所在を相続人に伝えておきたいところですが、財産額はあまり教えたくありません。そこでお勧めなのが、通帳やキャッシュカードのコピーを終活ボックスに入れておく方法です。金融機関の電話番号も載っていますので、死亡連絡にも便利です。(終活ボックスについては、前回の記事「終活って必要なの? できれば準備しておきたいこと」でも詳しく書いています)

預貯金の払戻し制度以外の方法

便利な「預貯金の払戻し制度」ですが、全額を払い戻しできるものではなく、そもそも仮払いの制度です。これよりも、もっと確実で、相続発生後すぐに全額の支払いを受けられる方法が2つあります。

その1つは生命保険です。自分を被保険者とした死亡保険を契約し、受取人に家族を指定しておけば、死亡後すぐに家族は死亡保険金を受け取ることができます。当然のようですが、死亡保険金は相続財産には含まれず、受取人固有の財産とみなされるからです。

相続税の計算では、死亡保険金はみなし相続財産として計上する必要があります。なお、死亡保険金には500万円×法定相続人数の非課税限度額があります。

もう1つは遺言代用信託です。信託銀行に金銭を信託し、受取人(受益者または残余財産帰属権利者)に家族を指定しておけば、死亡後すぐに家族は信託金を受け取ることができます。信託財産も相続財産には含まれないので、遺産分割協議の対象外です。ただし、相続人の遺留分を侵害している場合には、受取人への支払い後に、相続人から遺留分侵害額請求をされる可能性があるため注意が必要です。遺留分については、次回詳しく説明します。

信託財産も相続税の計算では、みなし相続財産として計上する必要があります。

もし使う予定のない預貯金があれば、保険や信託を活用することを検討してはいかがでしょうか。

Writer

遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

齋藤 弘道 氏

みずほ信託銀行の本部にて遺言信託業務に従事し、営業部店からの特殊案件やトラブルに対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げ(後の全国レガシーギフト協会)。2014年に野村信託銀行にて遺言信託業務を立ち上げた後、2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」「非営利団体向け不動産査定取次サービス」等を次々と実現。

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