- 掲載日
- 2021.7.16
終活って必要なの?
できれば準備しておきたいこと
Writer
遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事
齋藤 弘道 氏
「終活」にどのようなイメージをお持ちでしょうか。終活は自分の「死」に向き合うことですから、あまり嬉しいものではありません。ネガティブなイメージを持たれている方も多いでしょう。しかし、終活は充実した人生を送る準備であるとも考えられます。終活に対する意識や準備すべきことについて考えていきます。
前向きな終活とは
終活を手続きの面から見れば「自分が亡くなったときの準備」ですが、気持ちの面からは「人生を生き生きと過ごすための準備」と見ることもできます。実際にアンケート調査でも、60歳以上では約3分の1の方が終活を前向きに捉えているようです。
あなたは、「終活」に対してどのようなイメージをお持ちですか?

終活を「死ぬ準備」と考えると気が滅入りますし、まるで「死ぬために生きている」かのようです。しかし、例えば生命保険(特に死亡保険)も終活と同じく、死を前提としていますが、保険に加入することで金銭的な準備が整い、少し安心できます。終活を「いまを生きるための準備」と考えて取り組むと、将来への希望が持てると思います。
終活は誰のためにするものなのか
終活は基本的には「家族など残された人のため」に行うものですが、「いまを生きるための準備」と考えると、「自分のため」に行うものでもあります。一般的に終活と言われるものには、以下のような項目があります。
生前の自分の生活や権利に関するもの
- 財産管理等委任契約
- 自分の財産の管理やその他の生活上の事務について、代理権を与える人を選んで具体的な管理内容を決めて委任します。
- 判断能力の減退はないものの、長期入院や外出困難な状況となったときに、手続きの代行を依頼するものです。
- 入院事務手続代行/福祉施設事務手続代行
- 病院の入退院時または福祉施設の入居時における契約手続きを代行します。
- 入院・入所前の準備、外出時の付き添い、定期的な面会などに対応するサービスもあります。
- 身元引受契約
- 病院や福祉施設の利用者について、金銭債務の保証や身柄および遺留品の引き取りなどをする契約です。
- 入所に際して身元引受人(身元保証人)を求められた場合に、頼める人がいない方がこのサービスを利用します。
- 見守り契約
- 定期的に電話や訪問などをすることで、本人の健康状態や判断能力などを把握し、異常があれば必要な対応を取ります。
- 家族が遠方の方や身寄りのない方などが、任意後見契約・死後事務委任契約・遺言などの効力発生のために利用します。
- 任意後見契約
- 将来自己の判断能力が低下した場合に備えて、財産管理等に関する後見人を公正証書で委任する契約です。
- 判断能力の低下がみられたときに家庭裁判所に申し立て、任意後見監督人が選任されると後見事務が開始されます。
死後に残された人の財産や権利に関するもの
- 生前贈与
- 相続人または相続人以外の人や団体への無償の財産譲渡です。死亡前3年以内の贈与は相続税の対象となります。
- また、遺留分算定では、相続人への死亡前10年以内贈与と、相続人以外への死亡前1年以内贈与が対象となります。
- 遺言
- 自らの死亡により法的効力を発生させ、財産の配分や相続分の指定、身分事項等を定める文書です。
- 主な方式に公正証書遺言と自筆証書遺言があります。相続人以外へ財産を遺贈する場合には遺言が必要です。
- 家族信託
- 委託者が家族を受託者として、自分の財産を信託し、信託目的を定めてその管理処分を託す契約です。
- 成年後見では難しい財産の処分や、遺言では不可能な跡継ぎ遺贈などにも対応できる利点があります。
- 配偶者居住権
- 自宅の建物所有者の死亡時に、同居の配偶者が無償で自宅に生涯住み続けられる制度です。
- 遺産分割協議または遺贈で取得することが可能です。
- エンディングノート
- 自分の終末期や死後に備えて、家族等が判断や手続きに必要な情報を書き残しておく書類です。
- 遺言と異なり法的効力はありませんが、手軽に思いを記すことができます。
死亡の伴う手続きや慣習に関するもの
- 断捨離
- 身の回りの物品を整理することであり、終活の一貫として行われることがよくあります。
- ただ、体力も必要ですので、無理せず、日常の生活に支障のない範囲にしましょう。
- 葬儀・墓
- 自分らしい葬儀やお墓を希望される方は、葬儀社などとの生前の準備が必要です。
- また、ご家族とよく話し合うことも大切なことです。
- 連絡先リスト
- 自分が亡くなった時に連絡してほしい親戚・友人などをエンディングノート等に記載します。
- SNSの利用者は、追悼アカウントへ移行するための管理人を定めておくと良いでしょう。
- デジタル遺品
- 亡くなった方のスマホやパソコン、クラウドストレージ、SNSなどに残されたデータ、写真などです。
- ID番号やパスワードは記載した紙を封緘し、ネット銀行等の口座番号をエンディングノートに書く方法もあります。
- 死後事務委任契約
- 亡くなった後の葬儀、納骨、埋葬、死亡届などの事務について代理権を付与して委任する契約です。
- 親族に頼めない方などが、弁護士や司法書士などに委任することができます。
このうち〔生前の自分の生活や権利に関するもの〕は当然に「自分のための終活」ですが、これ以外の項目でも実は「自分のため」であるものがあります。例えば、「断捨離」は残された家族が困らないようにという気持ち(親心)から行うように見えますが、仮に何も整理しないで亡くなったとしても、家族は(大変ではありますが)遺品整理をするだけですので、決定的に困るような状況にはなりません。むしろ、断捨離は自分の人生を振り返り、気持ちとともに過去を清算するような側面が強いように感じられます。「エンディングノート」も大切な情報やメッセージを書くものですが、人生を振り返って気持ちを整理する機会であるとも言えます。
終活ボックスを用意しよう
上記のように、終活には多くの項目があり、全部できればそれに越したことはないのですが、現実には全部は無理なので、優先順位を決めて取り組むことをお勧めします。最初に用意したいのが「終活ボックス」(または終活ファイル)です。相続が起こったときに遺族が一番困るのは「どこにどんな財産があるのか手掛かりがない」ことです。この終活ボックスに、通帳やカードのコピー、取引残高報告書、保険証券、不動産権利証書など大切な書類を入れておき、その所在を家族など信頼できる人に伝えておくと良いでしょう。

また、エンディングノートは全部書こうとすると大変なので、自分が一番気になること(例えば子供のこと、ペットのこと、お墓のこと、封緘したパスワードなど)だけを書いて、終活ボックスに入れておきます。
終活ボックスが準備できたら、上記の終活項目リストから、ご自身で最も気になることから着手し、全てをやりきらない気持ちで少しずつ進めれば、負担感も少ないでしょう。
生前のリスクと死後のリスク
終活には「生前のリスクに対する備え」と「死後のリスクに対する備え」があります。上記の終活項目リストのうち〔生前の自分の生活や権利に関するもの〕が前者に該当しますが、特に、おひとりさまやご家族と疎遠な方は、必要に迫られる前に準備しておきましょう。これらの項目の多くは契約行為ですので、正常な判断ができる心身ともに健全な状態のうちに手続きすることで、後悔のない生き生きとした人生を歩めることが期待できます。
関連コラム

Writer
遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事
齋藤 弘道 氏
みずほ信託銀行の本部にて遺言信託業務に従事し、営業部店からの特殊案件やトラブルに対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げ(後の全国レガシーギフト協会)。2014年に野村信託銀行にて遺言信託業務を立ち上げた後、2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」「非営利団体向け不動産査定取次サービス」等を次々と実現。
コラムの注意事項
本コラムは一般的な情報の提供を目的としており、当社にて取り扱いのない商品に関する内容も含まれています。
当社が信頼できると判断した情報源から入手した情報に基づきますが、その正確性や確実性を保証するものではありません。
外部有識者の方にも本コラムを執筆いただいていますが、その内容は執筆者本人の見解等に基づくものであり、当社の見解等を示すものではありません。
本コラムの記載内容は、予告なしに変更されることがあります。