コラム
掲載日
2021.3.29

不動産オーナーが用心すべき「水災害」トラブル

Writer

セブンライツ法律事務所
パートナー 藤木 友太 氏

高まる水災害のリスクと、法令改正の動向

近年多発する大規模水災害。令和元年の台風19号の際には,武蔵小杉のタワーマンションの冠水被害が大々的に報道され、資産価値の低下が不安視されました。マンション住民らの団体は、川崎市に対して水害対策に関する要望書を提出しましたが、現在も解決には至っていないようです。

国土交通省は、平成27年以降「水防災意識社会再構築ビジョン」を策定し、官民一体となった水災害対策を推し進めています。その一環として、令和2年7月には宅地建物取引業法施行規則が改正され、不動産取引時の重要事項説明の際に「水害ハザードマップ」の明示が義務付けられるようになりました。

水災害の責任の所在をめぐる実際の裁判事例

水災害の問題は、不動産オーナー、入居者、そして行政を巻き込んだ多方面でのトラブルに発展するケースがあります。ひとつの裁判事例を紹介しましょう。

入居者は、とある賃貸用物件の1階部分を賃借してクリニックを営んでいましたが、台風により近隣の河川が氾濫し、1階部分が床上浸水して医療機器の故障や1カ月間の休業などの損害を被りました。そこで入居者は、オーナーに対し、これらの損害の賠償を求める訴訟を提起しました。

オーナー側の主張は以下のような内容でした。

①浸水は「不可抗力」つまり人の力では制御できない天災によるものである。

②仮に「不可抗力」ではなかったとしても、河川管理者(市)の管理が不十分であったことが浸水の原因である。

オーナーは、②を立証して自身の責任を回避するため、市に対して「訴訟告知」をすることにより訴訟に巻き込むこととしました。

しかし、①②どちらについても、裁判所が抱いた心証はオーナーにとって厳しいものでした。

もともとこの物件は低地に所在し、ハザードマップ上も浸水リスクのある地域として指定されていました。そのため近隣の物件は、基礎を高くしたり止水板を設置したりするなどの対策を講じており、実際に市内で浸水被害に遭った建物はわずかでした。このような理由から、①については、オーナーが浸水を予見して対策をとることは可能であり、「不可抗力」による被害ではないとされました。

②についても、市がこの物件の近隣河川の排水ポンプをあえて稼働させなかった判断にミスはないとされました。というのも、この時は市内の河川すべてが氾濫しかけており、各河川の高低差やポンプ同士の連係などを考えると、ポンプを動かしたらより広範囲に被害が生じる可能性があったからです。

最終的にこの事件は、一部賠償と賃料値下げ、オーナー負担で止水板を設置することなどの条件で和解となりました。

オーナーは「水災害」とどう向き合うべきか

水災害のトラブルでは、行政の管理責任がしばしば争点になりますが、オーナー側が行政の責任を問うためには、内的要因、つまり行政内部の明確なヒューマンエラーがあったことを立証しなければならず、高いハードルを乗り越えなければなりません。

近年盛んな水防関係法令の改正の目的は、不動産所有者自身の「水防災意識」を高めることにあるとされています。水災害対策の第一次的な責任は所有者にある、という国からのメッセージと言えるでしょう。

不動産オーナーとしては、厳しい情勢の中でも可能な限り水災害リスクを抑えるため、

① ハザードマップに対する理解を深める

② 現在加入している火災保険の補償対象・内容を再確認し、浸水リスクの大きさに応じて保険の見直しを行う

③ 近隣物件がどのような浸水対策を施しているかを意識的に確認する

④ 入居者に対する浸水リスクの説明を徹底する

など、自身がとりうる対策を積極的に講じていくことが肝要です。

藤木 友太 氏

Writer

セブンライツ法律事務所
パートナー 藤木 友太(ふじき ゆうた) 氏
弁護士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®

(経歴)

明治大学法学部卒、同大学法科大学院を修了後、2014年弁護士登録。

2017年にセブンライツ法律事務所に参画。

主な取り扱い分野は、企業のビジネスモデル構築・資金調達・労務・M&Aなどの法的支援、不動産関係法務、相続・事業承継法務。

実家は三代続く日本茶卸売店。幼い頃から多くの地元企業に接し、さまざまな経営者の本音を聞く中で、円滑な相続・事業承継ができなかったために閉鎖する企業が増えつつある現状に直面する。

弁護士として、また自身も家業の次期後継者として、日本のSuccession(承継)を法律面から支えることに使命感を燃やす。

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